「両生空間」 もくじへ
 「共和国」 もくじへ
 
 HPへ戻る

熱力業風景
(その4)


楽屋問答


 君が首をつっこもうとしている 「構想」 は聞いたけれど、しかしいったい、それをどうやって実行しようっていうの?
 むろん、こんな極小企業の我々に、大した選択の幅はないさ。
  それに、この手法はいまのところ準備中といったところで、確立したものでもない。
  ひょっとすると、構想倒れに終わってしまうかも知れない。
 
そうなったらそれで止むを得ないということだろうが、ともあれ、一体どういうことを考えてるんだ。
 ひと言でいえば、政・労・使への働きかけさ。
 大した選択の幅はないどころか、ずいぶん大掛かりな話に聞こえるけど、そういう三者構成のシステムって、もうすっかりと確立されていて、君ら極小会社の働きかけの余地なんかないんじゃないの、オーストラリアでは?
 むろん、オーストラリアのシステム全体を相手にしようというのじゃないさ。そんな大それたことは考えていない。むしろ、そういう意味では、モデルケースとして、ひとつのプロジェクト、 「イクシス」 を選んでいる。限定している。
 限定しているって言ったって、それでも、それは2兆円を超えるメガプロジェクトだろ。そんなでっかい魚を釣り上げようって考え?
 そういう疑問なら、――我々は極小企業だから、それが食ってゆけるほどの仕事さえひねり出せればいいのさ――、とでも答えておこう。
 なるほどね。しかし、それにしても、そのプロジェクトはそれで、すでに動き始めているのだし、多くの競合企業が我先にと殺到していると思うけど、一体、どういうところで、他社との差異化をはかり、自分たちを売り込んでゆけるのかい。君のいうその極小、つまり微弱企業が。
 我々のその 「微弱」 企業の “強み” はね、まあ、細いけれども、けっこう上質な人脈さ。
 見当がつかないわけじゃあないけれど、もっと説明してくれよ。
 我々の会社の関係者は、みな50歳以上のいわば熟年者たちだ。それに、会社も設立以来、もう二十年近い実績を持つ。そういう、時間的厚みが培った、そして、それをことさらに備蓄してきた、良質な人間関係がある。
 今日のビジネスの世界でかい?
 それは一見、ナイーブな行いと受けとめられることかもしれない。それに確かに、がっかりさせられた事が少なくなくあったことも事実だ。しかし、一つの構えとして、こちらがある見識眼さえ持っていれば、 “掃き溜めに鶴” を発見することはありうるし、事実、それは経験できてきた。
 確かに、そういう鶴がまったく居ないわけではないとは思うが・・・。
 実例をあげて話そう。たとえば、組合関係者でいうと、現役のリーダーからは身を引いた後でも、自分で何らかのビジネス――人材供給業のケースが多い――を営んでいる人は少なくない。そうしてそのビジネスを続けながら、それに甘んじていない人物は、多くはないがいる。彼らは、かっては組合活動のプロだったわけだが、いまや自分でビジネスをころがしながら、その面でも経験を深めている。いわば、酸いも甘いも知り尽くすまでに至っている。つまり、組合費としての徴収と、賃金のピンはねを、違うことだ区別して胸を張っていられるような、お目出たい人種じゃない人さ。
  同じことは、企業側でもありうる。企業のそれなりの地位に就き、ひとまずの責務は果たしながら、それだけでも大変なんだが、やはり、それに甘んじず、そのさらに奥を考えている人はいる。
  労使両側でのそういう彼らは、高い良識の実行者たちとも言えるのだろうが、およばずながら、我々の会社は、そうした人物に注目してきたし、刺激もされてきた。それをいま、何とか、ひとつの “戦線” にまとめられるかもしれない、との認識だ。
 なるほど、ありえない話ではないが、しかし、現実として、そうした人物はどこにでもいるわけではないだろうし、今回のこのモデルに選んだプロジェクトに、充分、メンバーとして揃いうるのだろうか?
 確かに、現実的な勢力として、充分有力な陣営が組み上げられるかどうか、それが問題で、未知数でもある。それを現在、政・労・使の三方面で、狙いどころをつけている。それが、初めに言った 「働きかけ」 だ。うまくゆくかどうか、それは解らない。ただ、そうした組み立てが功を奏し、人目に見えるようになればなるほど、そうした意志を内に潜めていた人たちも動きやすくなる。
 うまくゆけば、何か、すごく有力な今後へのモデルとなりそうだ。
 そこのところは超・楽観的でありたいと思うのだけれど、現在の、そして予想しうる将来の範囲で――来年末の総選挙では保守連合の政権奪還必至と予想されており、労使関係の面では、いっそう対決色の濃い公約が実行されてゆくだろう――、ますますと、労使にらみ合った不毛な悶着が進むことが見越せる。そうした今、たとえそれが一モデルでしかないとしても、ある成功例ができれば、それは、将来への布石、少なくとも一つのヒントとなるだろう。
 確かに、楽観的でなくてはいられないような話だな。成功を祈るよ。

 (2012年4月5日)

 「両生空間」 もくじへ
 「共和国」 もくじへ
 HPへ戻る


           Copyright(C)、2012, Hajime Matsuzaki All rights reserved.  この文書、画像の無断使用は厳禁いたします