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私共和国 第13回



そこそこ利益、しっかり雇用


 今、私の手元に、日本経済新聞の昨年12月23日付けの記事があります。 「トヨタ、営業赤字1500億円」 とのトップ見出しのもとに、 「自動車クライシス」 と題した連載の囲み記事も見られます。その一回目の副見出しは 「逆回転するクルマ経済」 となっています。つまり、日本経済の文字通りの屋台骨となった自動車産業が、世界金融危機で始まった混乱を契機に、急速な収縮を余儀なくされているといいます。
 同紙の今年1月15日の記事では、トヨタの世界生産能力が年1000万台であったものが、800万台あるいは700万台にまで落ちるという。言い換えれば、世界トップのカーメーカーを目標に、縮小する国内市場には依存できず、積極的海外展開を繰り広げてきた結果、工場や設備の新設にともなう減価償却費や人件費など固定費が上昇し、黒字に必要な稼働率は、従来は7割程度とされていたものが8割弱にまでも上昇しているといいます。それが、世界的な販売失速により、その稼働率を下回り始め、赤字に陥りやすい体質が露見したというのです。
 この、収縮する国内市場を見切り、海外市場に積極進出してゆく戦略は、自動車に限らず、金融でも、素材でも、建設でも、食品でも、ほとんどすべてと言ってよいほどの各日本産業に見られるものです。ことに、世界金融危機で他国企業の金融体力が弱まっている時、比較的その影響から遠く、また、円高による円の力も作用して、日本企業の海外への進出は今が千載一遇のチャンスとする、極めて攻撃的な姿勢さえ見受けられます。
 そうした日本をまさに代表するトヨタが、昨年11月、2009年3月期について、前期の1兆6000億円の営業利益を6000億円に大幅下向修正、しかもその後わずか一ヶ月余りの12月22日、今度は1500億円の赤字に転落するとの予想です(30日の報道では4000億円に拡大)。この急激な大変化はいったい何を物語っているのでしょう。また、こうした激変は、まさか、トヨタのみに限った現象とも言えますまい。
 そしてそもそも、この百年に一度という危機そのものが、あたかも米国のサブプライム問題に発する信用収縮が原因で、こうした激変をもたらしているとされていますが、むしろ、そうした積極的海外展開をともなう攻撃的戦略こそが、そうしたもろい利益体質を作りだしていたという下地があったからと言えます。
 日経記事(12月23日付)によると、上場企業が増益局面に入る前の02年3月期、製造業の海外売上高比率は30パーセント。それが6年後の08年3月期には46パーセントにも上昇しています。つまり、わずか6年で、三分の一からほぼ半分になったわけです。ソニーでは、その比率は8割近いといいます。つまり、日本上場企業とは、もはや半分以上、日本企業ではないのです。あるいは、それほど大きすぎて、それだけリスキーだとも言えそうです。
 この日経記事は、こうした 「国のかたち」 は見直しを迫られるかもしれない、と結び、日本経済のあまりの製造業依存への警鐘を鳴らしています。
 というより、そうした日本経済の王者たるトヨタがGMを抜いてまさに世界一の自動車メーカーになった途端のこの激変であり、ある種、グローバル競争への、そうした揺さぶりが起こっているかに見受けられます。 
 まさに、サバイバルがかかっていると言えますが、そうした企業経営レベルのサバイバル以上にサバイバルの問題となっているのが、雇用であり、暮らしです。トヨタ型した日本経済がこうしてみごとに揺すぶられ、瞬時にしてその屋台骨にひびが入る。1兆6000億円の利益も、それを支える柔軟な雇用形態も、吹っ飛んでしまえば元の木阿弥です。
 別にそんなに大きくなくてもよく、むしろ、そう簡単には吹っ飛ばない、そこそこ利益のしっかり雇用がしっかり結びついたビジネスモデルはないのでしょうか。
 フロンティアは、外にではなく、むしろ、内にあるのではないのか。
  

  
 (2009年1月30日)

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